「One Bangkok(ワン・バンコク)」に見るバンコクが目指す新しい都市の形

MATSUMOTO | 03.Nov.2024 | タイ

2024年10月25日に一部開業した「One Bangkok(ワン・バンコク)」は、バンコクの未来を象徴する都市再開発プロジェクトとして注目を集めています。

バンコクの未来を象徴する都市再開発プロジェクトとして注目を集める「One Bangkok(ワン・バンコク)」。2024年10月25日にオープニングセレモニーが行われ、その一部の商業施設が開業されました。

One Bangkok(ワン・バンコク)は、170,000平方メートルの広大な敷地に、オフィス、商業施設、住宅、ホテル、文化施設が一体化した、タイ最大規模の統合型開発プロジェクトとして、タイ国内だけでなく世界からも注目されています。

開発を手掛けるのは、タイの有力コングロマリットであるTCCグループ傘下にある大手不動産会社TCC Assets (Thailand) Company Limitedと、シンガポールを拠点とする総合不動産開発企業Frasers Property Limited。単なる商業施設にとどまらず、持続可能な未来を実現するためのスマートシティ構築をビジョンとして掲げ、ビジネス、観光、文化の中心地としてバンコクをグローバルに発展への貢献に期待が寄せられています。

バンコクの中心部、ルンピニ公園に隣接したエリアという立地。ルンピニ公園はバンコクの市街地で最大の緑地の一つで、自然環境を活かした都市設計が可能となり、バンコクの新しいランドマークとしての役割を担います。

MRTのルンピニ駅やBTSサラデーン駅に近く、シーロムやスクンビットのエリアとスムーズに連携できるため、多くの集客が期待されています。

MRTのルンピニ駅から直結するアクセス。雨に濡れずにビル敷地内にアクセスできるのは生活者にとっても大きな魅力。

ビルの外壁がさながら要塞のように区域を取り囲んでいます。

ビルと道路の間には十分なスペースの前庭が確保され、緑化が保たれています。

One Bangkok(ワン・バンコク)が目指すスマートシティの追求

One Bangkokが他のタイの複合施設と大きく異なる特徴は、サステナビリティと都市全体のコミュニティ設計に重点を置いた開発方針にあると言えます。このプロジェクトは、都市と自然の調和を重視しており、建物と緑地が共存するようなデザインが施されています。視察した際には、緑豊かな広場や庭園があり、熱帯気候に合わせた設計で自然が日常生活に溶け込むような空間が印象的でした。

エネルギー効率を高めるためのシステムには日本企業も深く関わっており、エコフレンドリーな技術が積極的に採用されています。
タイでは初となる都市型地域冷房事業および配電事業に東京ガスグループ及び三井物産が参画し、持続可能な都市づくりの一環として大きな役割を果たしています

地域冷房は、街区全体で必要な冷熱を地域冷房センターで一括して生成し、専用の配管網を通じて各ビルに供給する方式です。このシステムにより、需要の均等化で設備の最適化を図り、また大型機器の導入によりエネルギー効率と環境性能を向上させます。さらに、各ビルごとに冷熱生成設備や管理スタッフを設置する必要がないため、スペースの効率的な利用や省人化も可能です。大規模な都市開発での高密度な熱需要に対応し、環境と経済面で大きなメリットをもたらすシステムとなっています。

使用エネルギーの削減や雨水などの再生水の利用等に対してタイ初となるLEED Neighborhood Development Platinum認証を獲得しています。

バンコクは急速な都市化と人口増加に伴い、インフラの過負荷や環境問題が懸念されています。One Bangkokは、これらの問題を解決するためのモデルケースとしても注目されます。エネルギー効率やスマート技術を活用して、より持続可能で住みやすい都市空間を提供することが期待されています。

One Bangkok(ワン・バンコク)の商業施設に見る伝統とモダンの融合

One Bangkokは、タイの伝統文化を再解釈し、現代的な都市生活と調和させたデザインが特徴です。地元アーティストやデザイナーが携わることで、施設内にはタイ文化が反映されたアートインスタレーションや展示が随所に設置されています。これは、訪れる人々にタイの文化を感じてもらうと同時に、地域のアイデンティティを維持する重要な試みです。また、地元文化を尊重しつつも、各地域が持つ特有の価値観を未来の都市空間へと融合させています。

「Parade」「The Storeys」「POST 1928」という3つの連携するショッピングエリアが展開され、それぞれが、ショッピング、ダイニング、ビューティー、ヘルス、ウェルネス、エンターテイメントを独自のスタイルで融合し、多様なニーズに応えます。2024年11月現在では「Parade」「The Storeys」がオープンしています。

Parade1階の屋内ステージ。

2024年11月現在は準備中のテナントが多く、ショップがオープンされるにつれ賑いが増していくことでしょう。

Parade3階にある「SARAPAD THAI」。タイの伝統的なデザインやプロダクトを現代風にアレンジした製品が並びます。

写真映えするスポットも用意されていました。

タイでの出店が加速する「スシロー」も入居しています。ここでも常に満席です。

この商業施設の目玉の一つである「MITSUKOSHI DEPACHIKA」。

内装は銀座三越のデパ地下の世界観を感じさせます。

「The Storeys」にはコンセプチャルなストーリーをもつショップやレストランが入居します。タイ初上陸の「ウルフギャング・ステーキハウス」もこちらに出店します。

One Bangkokには、タイ初進出のブランドやハイエンドなグローバル企業が数多く入居する予定で、ラグジュアリーな体験が可能な商業エリアが設けられています。加えて、オフィスワーカーがリフレッシュできる空間やフィットネス施設、イベントスペースも充実しており、従業員のワークライフバランスを意識した快適な職場環境が整えられています。こうした環境が、従来の商業施設やオフィス複合施設とは異なり、働く人々にとって特別な魅力を提供しています。

タイの都市の再構築と経済的影響

One Bangkokの開発地は、もともとナイトバザールやルンピニーボクシングスタジアム、旧陸軍士官学校予備校などがあった場所にあります。広大な敷地は、バンコクの商業・金融の中心地であるルンピニ公園の近くに位置しており、戦略的に非常に価値の高いエリアと言われています。

バンコクの主要ビジネス街であるシーロムやサートーン、ラマ4世通りに近接しているため、交通や商業活動において非常に便利です。周辺には、政府機関や多国籍企業のオフィスが集まり、タイ国内外のビジネス活動が活発な地域として知られています。このため、開発地は国内外の企業にとって魅力的な投資先と言えます。

またバンコクの主要公共交通機関であるBTSスカイトレインやMRT地下鉄の駅に近く、交通アクセスが良好です。この利便性により、都市の他の地域や空港への移動が容易になります。特に、交通渋滞の多いバンコクにおいて、公共交通機関へのアクセスが良いことは重要な要素です。

このような立地条件、プロジェクトのスケールの大きさから、多くの投資が見込まれるため、タイ経済全体にもポジティブな影響を与えるとされています。

一方で、One Bangkokとよく比較される日本の麻布台ヒルズにもみられるように、このような大規模都市開発プロジェクトは、その規模や特性から富裕層やビジネスエリートをターゲットにした側面が強いといえます。両者とも、先進的な都市設計や高級オフィス、ラグジュアリーな住宅、ハイエンドの商業施設を含む複合施設として構想されており、富裕層や外資系企業に向けた魅力を意識したものになっています。

こうしたグローバルスタンダードに習った開発が、一部ではタイ独自の文化や伝統的な都市の特徴を薄めるのではという懸念も挙げられます。タイの魅力はその文化や歴史、地域性にあり、過度に外国の基準に適応しすぎると、その特異性が失われるリスクもあるのではという意見もあります。

また高級志向の開発は、社会全体への波及効果が限られることや、社会的・経済的格差を助長する可能性も指摘されています。都市が「富裕層のための島」のようになってしまうと、都市全体の一体感や公共性が失われるリスクもあります。

ルンピニ公園は観光客や地元住民に人気のある場所で、レクリエーションやイベントなど多様な用途に利用されています。この近隣にスマートシティを構築することで、観光客やビジネス訪問者を引きつけ、地域経済の活性化に寄与します。

One Bangkokでは、こうした先進的な施設を媒介として、地域住民への雇用の創出、文化的な交流などで、経済的な側面でも持続的な発展を実現できるのかが注目されます。

富裕層向けの要素を持ちつつも、都市全体の持続可能性や包括性を考慮し、一般市民にもメリットを提供するバランスの取れたアプローチを期待したいと思います。

まとめ

One Bangkokは、単なる複合開発を超えて、バンコクの未来を示す場として期待されています。サステナブルな取り組みや地域文化との調和を重視し、国際都市としてのバンコクの地位をさらに高めることで、現代都市が求める価値を提供し続けることが目指されています。バンコクが目指す新しい都市の形として、今後の進展にも注目です。

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