MATSUMOTO | 06.May.2025 | ラオス
ふと思い立ちラオスの古都・ルアンパバーンへ。バンコクからならLCCを使って手軽に行けて、2泊3日でも十分に満喫できる小さな町です。
ルアンパバーンは、ラオス北部、メコン川とナムカーン川の合流地点に位置する小さな古都です。山々に囲まれた盆地にあり、標高は約300メートル。空気が澄んでいて、朝晩は涼しく、乾季の空は特に美しく感じられます。国としては東南アジアの内陸国ラオスに属しており、タイ、ベトナム、中国などに囲まれた地理的な要衝でもあります。
この町が世界的に知られるようになったのは、1995年にユネスコの世界文化遺産に登録されたことがきっかけでしょう。仏教寺院や王宮といったラオスの伝統文化と、フランス統治時代に築かれたコロニアル建築が融合した独自の都市景観が魅力。町の中を歩けば、黄金に輝く寺院や木造の家屋、真っ白なフランス風の邸宅などが自然に並び、まるで多様な時間が溶け合い、ゆっくりと流れているような感覚に包まれます。
歴史的には14世紀、ファー・グム王によってラーンサーン王国(「百万の象の国」)の首都と定められたのがルアンパバーンの始まり。仏教が深く根付くラオス文化の中心でもあり、現在でも30以上の寺院が町中に点在しています。
また、毎朝行われる托鉢の儀式もルアンパバーンの象徴的な風景のひとつです。日の出前、オレンジ色の僧衣をまとった僧侶たちが列をなして町を歩き、住民や観光客が静かに米や果物を手渡す姿は、観光というよりも「祈り」に近い体験。町全体が精神的にどこか静謐で、心を整えてくれるような空気をまとっています。
ルアンパバーンは華やかさや派手なエンタメはありませんが、「何もしないことを楽しむ」場所。散策してもよし、カフェでのんびりしてもよし、川沿いの夕日をただ眺めて過ごすのも贅沢。そんな時間を過ごしたいときに、ふと思い出したくなる町です。
日本からルアンパバーンへの直行便は現時点ではありませんが、バンコクやハノイ、ビエンチャンなどの近隣都市を経由することでアクセスできます。バンコクからはLCC(格安航空会社)も含めて1日数便が運航しており、飛行時間は約2時間。小さな空港に降り立つと、そこには都会の喧騒から離れた、のんびりとした空気が流れています。
ルアンパバーン空港に到着。
空港から市街地へはおよそ4〜5kmという距離にあり、アクセスは非常にシンプルです。私は到着後、空港のタクシーカウンターで乗り合いタクシー(シェアバン)を利用しました。料金は200バーツ(約50,000キープ)で、同じ方向に向かう旅行者たちと一緒に乗り合わせるスタイルです。
乗車前に行き先を告げると、名前が呼ばれるまでロビー付近で待機。数人が集まるとスタッフが案内してくれて、ドライバーが宿の前まで順番に送り届けてくれました。市街地までは車で10〜15分ほどで、道も混雑はなく快適。気軽に利用できる便利な移動手段です。
ちなみに、空港から市街までの移動には以下の方法もあります。
・専用タクシー(チャーター):1台で70,000〜80,000キープ程度(約300〜350バーツ)
・徒歩:市街の端までは可能だが、荷物が多いと現実的ではない
・ホテル送迎:一部ホテルは事前予約で無料/有料送迎あり
現地通貨がない場合でも、空港ではバーツや米ドルがそのまま使えることも多く、到着直後の不安はあまり感じませんでした。英語も基本的なやりとりなら問題なく通じます。
ルアンパバーンの街並みをひと言で表すなら、「静けさと優雅さが同居する場所」。町を歩いていると、思わず立ち止まって見入ってしまうような風景がそこかしこに広がっています。
この町の魅力のひとつは、ラオス伝統の木造家屋とフランス統治時代のコロニアル建築が美しく調和している点です。低層の建物が整然と並び、漆喰の白い壁に濃い木の柱や窓枠が映える、どこか懐かしく落ち着いた雰囲気。豪華なわけではありませんが、細部に品があり、町全体が大きな博物館のようにも感じられます。
通りを歩いていると、ところどころに金色の仏塔や寺院が現れます。装飾の施された屋根、鮮やかなモザイク、オレンジ色の袈裟をまとった僧侶たち――視界に入ってくるものすべてが、日常の中に溶け込む宗教と文化の美しさを物語っています。
さらに印象的だったのは、町のあちこちに咲く花々。プルメリアやブーゲンビリアのような南国らしい花が建物や路地の風景に彩りを添え、暑さの中にふとしたやさしさを感じさせてくれました。その雰囲気はどこか沖縄・石垣島にも通じるものがあり、アジアの小さな町でありながら、どこか日本人の感性にも馴染む空気を感じました。
5月のルアンパバーンは乾季の終わりにあたるため、日中はかなり暑くなります。日差しは強く、道を歩いていると肌がじりじりと焼けるような感覚に。観光スポットは徒歩で巡れる距離にまとまっていますが、帽子やサングラス、水分補給は欠かせません。日陰に入るとホッとするその感覚も、この町の静けさと相まって印象的でした。
道沿いには木陰の多いカフェや、扇風機が回るローカル食堂も点在しており、どこかでひと休みしながらゆっくりと散策するのがおすすめです。観光地とは思えないほど落ち着いたペースで、時間がゆるやかに流れていく感覚が、この町の最大の魅力かもしれません。
午後のやわらかな日差しが照らす旧市街の通り。白壁の寺院と屋台が静かに並び、ゆったりとした時間が流れている。
観光客とバイクが行き交う午後の中心街。軒先に雑貨やランタンがぎっしりと並び、ルアンパバーンのにぎわいと素朴さが入り混じっています。
鮮やかな黄色が目を引くカフェ。
木造バルコニーが美しい、ルアンパバーン旧市街の通り。午後のひととき、観光客の姿もまばらで、静けさが際立っていた。
カフェでひと休み。色とりどりの壁とアートが飾られた空間が印象的。
ルアンパバーンの物価は、タイと比べてもやや安く感じる場面が多いです。観光地でありながら、全体的にローカル感が色濃く残っているため、うまく選べばリーズナブルに旅を楽しめます。
たとえば、屋台やローカル食堂では、ラープやカオソーイなどのラオス料理が10,000〜20,000キープ(約50〜100バーツ/約200〜400円)ほどで食べられます。観光客向けのレストランに入ると、一品あたり約80,000〜110,000キープ(約160〜220バーツ/約640〜880円)前後が相場でした。
ホテルもピンキリですが、清潔で雰囲気の良いゲストハウスなら1泊約1,000〜1,500バーツ(/4,000〜6,000円)程度で泊まれますし、タイミングが良ければ四つ星以上のホテルが2,000バーツ(/8,000円)代で泊まることもできます。
ナイトマーケットでは手工芸品や雑貨もたくさん見かけますが、交渉次第で安く買えることもあり、買い物好きには嬉しい環境です。
移動も基本は徒歩圏内で済むため、交通費がほとんどかからないのもポイント。遠出する場合はトゥクトゥクやチャーター車を使います。
バンコクからのアクセス費を除けば、ルアンパバーンでの滞在費は比較的抑えやすく、コストパフォーマンスの高い旅先といえるでしょう。
注意点としては、クレジットカードやスマホ決済などのキャッシュレス手段は、基本的に使えないと考えておいたほうが安心です。ナイトマーケットやローカル食堂、トゥクトゥクなど、旅行中に利用することが多い施設のほとんどは現金払いのみ。観光客向けのレストランやホテルの一部ではカードが使える場合もありますが、それでも端末が故障中だったり、手数料を上乗せされることもあります。
バーツや米ドルが使える店もありますが、場所によって対応がまちまちで、そのたびに使えるかどうかを確認するのは少し手間です。安心して旅を楽しむためにも、あらかじめラオスキープを多めに両替しておくのがおすすめです。
ルアンパバーン限定ラベルのビール。旅の午後、静かなカフェで味わう一杯が贅沢。
やさしい辛味とコクがクセになるラオス版カオソーイ(約25,000キープ/約50バーツ)。ビアラオと一緒に、ローカルレストランでほっとひと息。
ルアンパバーンの中心にそびえる「プーシーの丘(Phou Si Hill)」は、町を訪れたら一度は登っておきたい定番の観光スポットです。標高は約100メートルと小高い丘ですが、その頂上からは360度のパノラマが広がり、メコン川とナムカーン川、町並み、そして遠くの山々までも一望できます。
丘のふもとからは、約300段の階段を登ることになります。観光客も多いルートですが、階段の途中には仏像や祠が点在し、木漏れ日の中を静かに進むうちに、だんだんと日常から距離が離れていくように感じます。
私が登ったのは夕方、ちょうど日が暮れる少し前の時間帯。サンセットの名所として知られているため、多くの人が同じ時間に集まってきており、頂上はすでに人でいっぱい。観光客だけでなく、地元の若者たちもスマホ片手に夕日を待っている様子が印象的でした。
夕日がゆっくりとメコン川の向こうへ沈んでいくその光景は、思わず言葉を失うほどの美しさ。空がオレンジから紫へとゆっくりとグラデーションを描き、町全体がやわらかい光に包まれていく瞬間は、ルアンパバーンという町の穏やかなリズムと深く響き合っているように感じました。
プーシーの丘から望むメコン川と夕暮れの山並み。静かに色づく空と川の流れが、ルアンパバーンの一日を締めくくる。
丘の反対側には、街とナムカーン川、奥に広がる山々の絶景。穏やかに広がる町の姿が、ルアンパバーンらしい時間の流れを物語っている。
1日目の夕方、プーシーの丘で夕日を見たあと、そのまま足を延ばしてナイトマーケットへ。ルアンパバーンのナイトマーケットは、町の中心を通るシーサワンウォン通りが歩行者天国になり、夕方から屋台がずらりと並びます。日が沈みかける頃には、赤や青のテントが道の両脇に立ち並び、空の色と屋台の明かりが混ざり合って、幻想的な雰囲気に。
マーケットには、衣類や刺繍入りのポーチ、カラフルな布雑貨、木彫りの置き物、ランタンなど、ラオスらしい手仕事の品々がたくさん。観光客向けではあるものの、ひとつひとつが丁寧に作られており、見ているだけでも楽しく、ついつい時間を忘れて歩き回ってしまいます。
売り手の多くは地元の女性たちや子どもたち。笑顔で声をかけてくることはあっても、無理に売りつけるような雰囲気はなく、全体に穏やかでフレンドリーな空気が流れていました。
値段は交渉次第。まとめ買いすればディスカウントも期待できますし、100〜200バーツ(約20,000〜40,000キープ)で買える商品も多く、お土産探しにはぴったり。エコバッグにあれこれ詰めながら、旅の記憶になるようなものを選ぶ時間は、まさに旅の醍醐味です。
日が沈むころ、ナイトマーケットがにぎわいを見せはじめる。
鮮やかな布製品やアクセサリーが所狭しと並ぶ。ひとつひとつが丁寧に手作りされていて、眺めているだけでも楽しい。
翌朝、まだ空がうっすら明るくなり始めたころ、私はルアンパバーンの托鉢を見に宿を出ました。この町では、毎朝夜明け前からオレンジ色の袈裟をまとった僧侶たちが列をなし、静かに町を歩きながら人々から食べ物の布施を受け取る「托鉢」の光景が日常として息づいています。
通りの歩道には小さな椅子が並べられ、地元の人や観光客が米や果物などを用意して静かに待っています。僧侶たちは一人ひとりの前で止まり、差し出された供物を受け取っては、また次の人のもとへと進んでいく。その姿はまるで儀式のように厳かで、町全体が一瞬、無言の祈りに包まれているような空気でした。
托鉢の列は思ったより長く、僧侶の数も多く、まさに町全体で営まれている文化なのだと実感しました。
都会では味わえない、静けさの中にある敬虔さ。まだ交通量の少ない道路、そして地元の人々と僧侶の間に交わされる穏やかなやり取り――それは単なる観光体験というより、心を整える時間だったように感じます。
托鉢の風景は、ルアンパバーンという町の精神性をもっとも象徴するものかもしれません。もしこの町を訪れる機会があれば、ぜひ早起きして、この静かな儀式に触れてみてください。
オレンジ色の袈裟をまとった僧侶たちが、まだ人影の少ない朝の通りを静かに歩いていく。
小さな椅子に座り、手を合わせて一掴みのもち米やお菓子などを渡す地元の人々。
2日目の昼、ルアンパバーンの町を抜けて、人気の観光スポット「クアンシーの滝(Kuang Si Falls)」へ行きました。町の中心からは約30kmほど離れており、アクセスには車でおよそ1時間ほどかかります。私はAgoda経由で乗り合いバンを予約。宿の前まで迎えに来てくれるタイプで、他の旅行者と一緒に向かうスタイルでした。
バンは市街を抜けると、のどかな田園風景の中を進んでいきます。緑の山々、農地、水牛の姿などが窓の外に広がり、車に揺られながらも自然と気分がリフレッシュされていきました。
到着して入口を抜けると、まず小さな動物保護区があり、月の輪グマが飼育されている様子が見られます。そこを過ぎると、いよいよ滝エリアへ。足を進めるごとに水音が大きくなり、木漏れ日のなかを流れるエメラルドグリーンの水がちらちらと見えてきます。
そして目の前に現れたのは、想像以上に美しい光景。幾層にも重なった石灰岩の段々と、その間を優しく流れる透明度の高い滝水。深い緑に囲まれた中で、水の青さがいっそう際立って見え、まるで楽園の中に迷い込んだような気分になります。水はひんやりとしていて、暑さの中では最高の癒しに。
歩道は整備されていて軽いトレッキング気分も味わえますし、ところどころに座って休める場所もあるので、のんびり過ごすにはぴったり。木陰が多いので、真夏の日差しを避けながら散策できるのも嬉しいポイントです。
帰りも同じ乗り合いバンで市街へ。午後のルアンパバーンに戻る頃には、なんとなく気持ちが軽くなっているのを感じました。自然と一体になれるような、静かで豊かな時間でした。
石灰岩でできた川床が水をろ過するため、青緑に輝く水面はまるで天然のプールのよう。
木漏れ日と静けさが調和する癒やしの空間。
幾層にも重なった石灰岩の段々が印象的。
クアンシーの滝の奥にたどり着くと、こんもりとした森の中に静かに流れ落ちる滝が姿を現します。
ルアンパバーンでの2日目の終わりは、宿の近くにあった川沿いのローカルレストランで締めくくることにしました。
観光客の姿はなく、店内では地元のおじさんたちがビアラオ片手に盛り上がっていて、言葉はわからなくても、楽しげな笑い声が絶え間なく響いています。スピーカーからはラオス語のポップスと思しき音楽が大音量で流れており、その雑然とした空気も含めて「これぞ東南アジア」と思わせる雰囲気。整備された観光地とは異なる、地元の日常がそのまま流れているような場所です。
テラス席に座ると、目の前にはゆったりと流れるメコン川が広がり、空には赤みを帯びた雲が浮かび始めていました。夕日が水面を照らし、オレンジ色に染まっていく川辺の風景は、喧騒とは裏腹にどこか静けさをたたえていて、ビールを飲みながらその空気をただ味わうだけで、心がじんわりとほどけていくようでした。こうした「何気ない一瞬」こそが、旅において最も深く心に残るものかもしれません。ルアンパバーンの最後の夜は、そんな豊かで静かな時間で締めくくられました。
夕暮れ前のメコン川。穏やかな水面と船のシルエットが、1日の終わりを静かに告げてくれる。
川を見下ろすテラス席でいただいたローカル料理とビアラオ。シンプルだけど心に残る味わい。
夕焼けがメコン川をゆっくりと包み込む。旅の終わりにふさわしい、忘れられない景色。